Introduction 戦闘妖精 雪風
7月半ばの店頭販売とほぼ同時に購入した(有)プラッツの1/72 メイヴ雪風。 約一ヶ月半(途中で休んだりしながら)コツコツ作ってきたが、ここにきてようやく一応の完成を見た。 そこで、このキットについて、原作の事、OVAの事、バンダイのキットの事・・・etcを交えながらつれづれなるままに語ってみたい。 雪風にはバルキリー同様かなり思い入れがある為、キットの話しからはかなり脱線することと思うが、よろしければお付き合い願いたい。
邂逅編
私が神林長平原作・戦闘妖精 雪風を最初に知ったのは、たしか高校生の頃だったと思う。 NHK FM(FM アドベンチャー)でラジオドラマ化されたものを聞いたのが最初であった。 80年代後半当時の高校生は自室にテレビ等持っているハズもなく、ラジオが重要な娯楽であった。 特にNHKは小説やエッセイのラジオドラマ化を得意としており、椎名誠の初期のエッセイを伊武雅刀の朗読でやった回等、今でも記憶に残る傑作回が多い。 雪風も大きな話しの流れを、小さなエピソードの連続で繋ぐという形式がラジオドラマとの親和性が高く、傑作シリーズだったと思う。 また、演出が余計な手をいれず、ほぼ原作のままドラマ化した点も良かった。 「戦闘妖精 雪風」というタイトルからまず強く引きつけられたが、コックピットに入ってから、離陸するまでのシーケンスをひとつひとつ、それこそシーケンシャルに描写した場面で、作品世界の虜になってしまった。 原作未読の方はぜひ手にとって欲しい。 「戦闘妖精 雪風 改 」ハヤカワ文庫 早川書房 ; ISBN: 4150306923
模型化の遠い路
SF3Dのヒトとして有名な横山宏氏のイラストが添えられた「戦闘妖精 雪風」はビジュアル的にも大いにSF少年を刺激した。 当然ガレージキット化の動きはゼネプロを始めとして何社かであった。 中には今井邦夫氏(このヒトのお父さんがまだ、凄いモデラーなんだよね)が原型を担当するというのもあった。 たしかHobby Japanの広告で読んだ記憶がある。 実際に発売されたか否か定かではないが、出てたとしても高校生の財力ではとても手が出せなかったと思う。 まだ日本でのガレージキット黎明期の頃の話しだ。
グッドラック
かつての高校生も立派な中年になり、SFから完全に離れた頃、突然書店で「グッドラック」を見つけた。 ハセガワがバルキリーを出し、自分の中のマクロス熱が復活したのとシンクロするように雪風も帰ってきた。 しかも原作作者の手による正当な続編として。マクロスシリーズがハセガワの手によって順調にモデル化されていく中、雪風もモデル化されないかなぁ・・・等と漠然と考えていた。 ネット上には、いろんなヒトが作ったCGの雪風が、それぞれのフェアリーの空を飛んでいる。 そんな中、雪風がOVA化されると言う。 ついに模型化のときは来たのか!?
OVA DOA
アニメ化された雪風は、正直自分が期待していたものとは違っていた。 おそらく高校生の頃の原作原理主義の自分なら全く許せなかったと思う。 が、そこは大人になって精神的余裕が出てきたので、これはこれで楽しもうという気持ちになった。 ヤオイ風なキャラデザもスーパーシルフのデザインも最初は全て"??"だったが、慣れれば何でもOKになってきた(但しムッシュの唄は除く)。 これは小説雪風の世界観を要素として借りた別の雪風だと思えば、それなりに楽しめる。 CGで描かれたフェアリー空軍機達の戦闘機動は素晴らしいし、レーダー照射を浴びたときのアラーム音だってカッコイイ。 私は思った。 このビジュアルがあれば、
脚本がクソでも雪風は模型化されるぞ!
EXモデルとメーカー製レジンキット
OVAの発売元はバンダイ・ビジュアル。 キットも当然バンダイから発売された。 しかし1/100という、言わばバンダイローカルのスケールで出た。 一緒に並べられるものがあるとすれば、かつてのタミヤのミニジェットシリーズか? ハセバルの登場以来SF戦闘機も72が標準スケールとなったのではなかったのか? それは俺の単なる思い込み・・・というか妄想? え? どうなの? その辺?? ・・・とか、思っていたら72はプラッツというあまり聞きなれない名前のメーカーから出るのだという・・・。
EXモデルのスーパーシルフ雪風(\3200)とプラッツのマルチマテリアルキット スーパーシルフ雪風(\12800)。 どちらも安いキットでは無い。 さらに、スーパーシルフが1巻で早くも大破するというOVAのストーリー展開と、発売がハセガワのバトロイドと重なったという時期的なこともあり、これらのキットは入手しなかった。 ハセガワバトロイドを量産し、一息ついた頃、OVA2巻以降の主役機となったメイブ雪風がEXモデルとして発売された。 1/100スケールで¥3500とやはり安いキットでは無かったが、高校生の頃から欲しかった(ものとは、多少違うにしろ・・)雪風が手に入るということで、この新しい雪風をとりあえず購入してみた。 プロポーションはOVAの画面の中とそっくり、未来飛行機の奇怪な形を見事にモデル化している。 が、やはり小さい。 この小ささが、どうにも不満であった。 やはり1/72くらいのスケールは欲しいよな・・・と思っていたとき、予想通りプラッツから72のメイブ雪風発売のアナウンスがあった。 しかし定価¥12800では、おいそれと買う気にはならない。 まぁEXモデルを完成させて不満だったら考えよう・・・くらいのテンションであったが、2ch模型板の雪風スレで、
「コックピットカプセルの製法上の問題で生産個数がかなり限られている」という情報が流れた。 買わずに後悔より買って後悔・・・サイトのネタにもなるよね・・・等と、オタク思考ルーチンは購入シーケンスに分岐した。
やっと本題です
さて、そのような流れで購入したプラッツのメイブ雪風だが、大きな箱の中は、実はスカスカで、一発で抜かれた胴体と、インサート成型のコックピットカプセル、そして翼や脚周り等の薄いパーツがちょっと入っているという感じであった。 マスプロ製品というより、完全にガレージキットのノリだ。 が、品質はやはり、そのへんのガレキとは一線を画する。 詳しくは
こちらを参照してほしい。
実際の作業の様子は
日記の7/16から
9/5までの内容を見てもらうと良いと思う。 そこで、この項では一応このキットについて総括的な話しをしようと思う。
まず、部品点数が大変少ない為、組み立てそのものの難易度はかなり低い。 メーカーの指示と違う手順を取るところといえば、カナード翼の基部のみ、切り離して本体に接着→成型、カナード翼は真鍮線で機体に接合という段取りを取る部分。 カナード翼は薄いので製品では反っていることが多いと思う。 贅沢を言えば、カナード翼はホワイトメタルのパーツにして欲しかったところだ。
コックピットブロックは、普通のレジン成型のシート、パネルを透明レジンの中にインサート成型してあるもの。 コックピットに手を入れるのは実質不可能だが、薄青いレジンの中にシートや計器板が見えるのは面白い。 #1000→#2000のペーパーで磨いた後、スーパークリアーを吹くと透明度が増す。 コックピット内への気泡の混入はかなりチエックしてあるらしく、ほとんど無いが、パーティングラインは比較的目立つことや、外側にエクボが出来ていたりするので、丁寧に下地を作る必要がある。 この部分は銀色なので、特に下地作りが重要なのだ。 やはり、コックピットブロックは歩留まりが良くないようで、夏のワンフェス会場のプラッツブースでは検品で跳ねられたパーツがジャンクとして売られていた。
サーフェーサーを全体に吹いた後カラーリングの順番は以下の通り。
- D(69 グランプリホワイト)
- A(333エクストラダークシーグレー)
- E(317グレーFS3623)
- C(338ライトグレ−FS36495)
- B (307グレーFS36320)
グランプリホワイトを最初に吹くのは、機首部のラインを先に作る為。 下側のラインを作るのに機体に直接デザインナイフをあてて、マスキングゾルを切る場面がある。 このとき力の入れ加減を間違えると機体に傷を入れたりすることになるが、下地に塗装がしてあるとリカバリーが大変難しくなるのだ。 Dのエリアを塗り終わったら、Dをマスキングして、Aエリアの指定色を全体に塗る。 全体のベースとなるカラーを塗っておくと、マスキングが少しずれた場合でも、いきなりサーフェーサーが見えてしまうということはなくなる。 塗装が乾いたところで、Aエリアにマスキングを追加しEエリアを塗る。 塗装指示では339だが、333と明度の差が少ないので317を採用した。 さらに、EエリアをマスキングしCエリアを塗る。 このように、マスク部分を追加して行く事で、この面倒な塗装パターンも攻略できる。 とりあえずは、根気の問題だが、せっかっちな私にはこれがなかなかつらいのだ。
デカールはカルト・グラフの大変高品質のものが付属する。 しかし、高品質ゆえの思わぬ困難が待っている。 カルト・グラフのデカールは余白部分がほとんど無い。 故に小さなコーションマークは高品質なピンセットでもつかむのが難しい。 さらに、本当に印刷されている文字が小さいので正しい方向に貼れたか判断するのに苦労する。 眼球に思いっきり意識を集中して”凝”の状態でデカールを見据える必要がある。 デカールを正しい方向と位置に移動させるのには、水を含ませた1号(筆の太さのコトね)くらいの平筆で、なでるように移動させると良い。 正しい位置にデカールが来たら、すかさず綿棒で水分を吸い取ってやるとピタリと定着する。 位置を決めている間に糊が無くなることもよくあるので、(マークソフターではなく)マークセッターも用意しておくこと。
完成。 そして・・・・
それでは、大きさの比較。 まず、バンダイの1/100 EXモデルとの比較。 EXモデルは途中まで作成した状態(サフ吹き)。 実際はこの写真からくる印象より大きさの差を感じる。 う〜ん、あなたならどちらの雪風を選ぶ?。
ハセガワの1/72のYF-19及びVF-1Aとの比較。 スーパーシルフがかなりの大型機の為、小さい印象のあったメイブだが、YF-19とほぼ同じ大きさというのが判る。 従って、VF-1よりはかなり大きい。 1/72という規格同士ならこのように機体の大きさを実感することが出来る。 ビバ 1/72!
塗装図ではなかなか判らない、塗装パターンの参考になるだろうか・・・・。
¥12800という値段は確かに安い値段ではない。 しかし、1/100のインジェクションキットが存在している中で、あえて1/72で欲しいと願うようなユーザーにとっては、決して高くは無い。 高品質な素材とデカール。 形状は勿論申し分無い。 ハセガワのバルキリーと違和感無く並べられる品質がこのキットにはあるのだから。 素材や製法から言って、おそらく2年後3年後も普通に買えるようなキットでは無いだろう。 気になるなら、今すぐ作らないにしても、市場にキットがあるうちに購入することをお勧めする。
最後に
さて、いかがだっだろうか。 すでにバンダイまたはプラッツ、どちらかのキットをお持ちの方にはモチベーションアップに繋がったであろうか? 私自身もいずれはバンダイのメイブも完成させてやらねばなと思った。 前半、キットと直接関係無い私自身の思い出のようなことをだらだら書いたが、2,3年経った後で、これら2種類のキットをどういう経緯で購入したのかを、自分自身が思い出す手がかりになるように書いたものだ。 そんなワケでこのページの目的の大半は自分の為のものではあるが、このページを読んでくれた方の参考に少しでもなったならば、私にとっては嬉しいボーナスである。
次はバンダイEXモデル版を検証する。